ラプソード計測データ解説③「回転軸(回転方向・ジャイロの角度)・回転効率」
皆さん、こんにちは!
今回はラプソードで計測できるデータポイントがどのような意味を持つのか、どう活用したらよいのか等について解説していきたいと思います。
第3回となる今回は、「回転軸(回転方向・ジャイロの角度)・回転効率」についてです。
データ活用をしてみたいすべての選手、指導者、そしてチーム関係者の皆さまのご参考になればと思います。ご自身が知りたいと思うポイントから、ぜひご一読ください。
※ラプソードの導入については以下の2つの記事でまとめていますので、ご興味のある方はこちらも合わせてお読みください。
1. 「回転軸(回転方向・ジャイロの角度)・回転効率」とは
1-1. 「回転方向」の定義
「回転方向」とは、投手側から見たときにどのような回転でボールが投球されたかを示し、ラプソードでは時計盤の短針に見立て回転方向が表示されます。
回転方向は利き腕や投球フォーム、球種によって変わります。ストレート(4シーム)であれば、基本的にバックスピンとなり、垂直方向から30度ほど回転方向が傾き、右投手なら01:00付近、左投手なら11:00付近で投球されるケースが多くなります。
トップスピンのボールは、バックスピンとは真逆の回転方向になるため、ドロップ成分が出やすくなります。
これらのバック/トップ/サイドスピンはトゥルースピンと呼ばれ、ボールの変化量に寄与する回転となります。
1-2. 「ジャイロ角度」の定義
「ジャイロ角度」とは、リリースされたボールを上空から見た時、回転軸がどのくらい進行方向側へ傾いているかを表します。
角度は0°~90°(基本右投手であれば+、左投手であれば-)で表され、進行方向と回転軸が垂直の場合は0°、進行方向と回転軸が一致した場合は90°となります。ジャイロ角度が大きくなるほど、ボールの回転には“ジャイロスピン”が含まれるようになり、 ジャイロスピンはボールの変化量※1に寄与せず、重力のみで落ちていく軌道となります。すべてのボールはトゥルースピンとジャイロスピンの組み合わせで投球されています。
※1 変化量の詳細については、次回のデータ解説④「変化量」で説明予定です。
1-3. 「回転効率」の定義
「回転効率」とは、ジャイロ角度をもとに算出され、トゥルースピン (バックスピン、サイドスピン、トップスピン) とジャイロスピンの割合を表します。
100%に近づくほどトゥルースピン (バックスピン、サイドスピン、トップスピン)の割合が増え、逆に0%に近づくとジャイロスピンの割合が増えるようになります。
トゥルースピンは前述した通り、変化量に寄与する回転となるため、回転効率が高い=トゥルースピンの割合が多いとなり、変化量が大きくなります。逆に、回転効率が低い= ジャイロスピンの割合が多いとなり、変化量は小さくなります。
1-4.「回転軸、回転効率」の表示位置
ラプソードのiPadアプリ「Diamond」または「Rapsodo Beseball」において、投球のセッション時に回転数は計測画面の以下の位置に表示されます:
投球時のリアルタイムの回転軸(回転方向・ジャイロの角度)・回転効率が表示されます。
2. 「回転軸(回転方向・ジャイロの角度)・回転効率」の活用法
2-1.回転軸、回転効率はボールの変化量に影響を与える要素の一つ
回転軸(回転方向、ジャイロ角度)、回転効率はボールの変化量に影響を与える要素の一つでもあります。
1-1. 「回転方向」の定義で記述したように、ストレート(4シーム)を投球した際、右投手なら01:00付近、左投手なら11:00付近で投球するケース(投手)が多くなります。一般的に、0:00に回転方向が近くなれば、ホップ成分の強いストレートになりやすく、回転方向が03:00(左投手なら09:00)に近づくようであれば、シュート成分の強いストレートとなります。
また回転効率も変化量に影響してきます。ストレート(4シーム)を例に取ると、回転効率が100%に近いと変化量が大きくなるため、回転方向に依って、よりホップしたりシュートしたりするストレートとなります。逆に回転効率が低いストレートの場合、変化量が小さくなるため、ホップ成分やシュート成分は小さくなり、いわゆる”真っスラ”と呼ばれる球質になります。
以下はラプソードを活用しているMLB投手の変化球ごとのデータ一覧です。
「SPIN EFFICIENCY」が回転効率を示しており、ストレートにおいては95%と非常に高い回転効率で投球する投手が多いことが分かるかと思います。
ただし、回転効率が高くないといけないということが決してありません。回転効率が低いストレート(真っスラ)を投球する選手はMLBにも少なくなく、当社のテクノロジーアンバサダーである大谷翔平選手もそのうちの一人です。真っスラは普段見慣れていない変化量のストレートとなるため、それが武器となります。
変化球に関しては、球種によって目指すべき数値が変わってきます。特にスライダー系の球種は、回転効率が低い(ジャイロスピンを多く入れて投球する)球種です。
自身のフォームや球速、どのような変化をさせたいかで、回転軸、回転効率を調整していく必要がありますので、上記のデータ一覧はあくまで参考に見ていただければと思います。
2-2.自分の球種の回転軸(回転方向・ジャイロの角度)・回転効率を理解する
自身の球種の回転軸や回転効率を理解することで、様々なことがわかります。例えば、0:00に回転方向が近いストレートを投げれるようであれば、一般的には、腕の振りが上から振り下ろすフォームになりやすいため、ホップ成分のあるストレート、落ちる系の変化量(フォークやドロップなど)が投球しやすくなります。逆に横に大きくスライドするような球種は苦手になります。
回転効率が低いストレートを投げる投手であれば、スライド系(スライダーやカットなど)が得意球種であることが多く、シュート系(ツーシームなど)の球種は苦手になります。
このように各球種の回転軸や回転効率を把握することで、自分の特徴を知ることができ、効率良く変化球の取得ができたり、球質の改善をすることができます。
3. 「回転軸(回転方向・ジャイロの角度)・回転効率」の分析方法
ここからは、ラプソードで提供している分析ツールを使ってどのように「回回転軸・回転効率」を分析できるのか、その事例をいくつか紹介していきたいと思います。
3-1.回転軸(回転方向・ジャイロ角度)・回転効率の数値を確認(クラウド )
ラプソードのクラウドでは、各選手のセッションごとに各球種の回転方向などのデータを確認することができます。
また3Dビジュアライゼーションで、ボールの可視化や比較が容易になっています。数値だけではわかりにくい回転関係のデータを3Dで確認することができます。
回転関係のデータについて、普段からラプソードでデータ計測をしておくことで、現在のコンディショニングを把握することができます。例えば、以下は好調時と不調時の投手のデータを比較したものです。
この投手は、投球の軸としていたストレートで空振りが取れなくなった感覚がありました。好調時と不調時のデータを比較するとストレートの回転方向が、やや03:00方向に傾き、結果として変化量(ホップ成分)が少なくなっていました。また、チェンジアップは反対に0:00方向に近くなり、シュート成分が少なくなっています。
このようにこれまで感覚でしか捉えることができなかった不調の要因が、データからの推定が可能となり、データや動画を確認して、フォームの修正などを行うことが出来ます。調整が戻らないようであれば、データを基に配球などを変更・工夫して、現状のコンディションでベストピッチを目指すこともできます。
3-2.回転軸や回転効率の改善度合いを確認(クラウド )
投球したボールの回転軸や回転効率が目標としている数値に近づいているのかも同様にクラウドで確認することが可能です。
以下のストレートの回転効率を上げた事例を記載していますのでご参考にしていただければ幸いです。
3-3.各球種の変化量を調整(Diamond App/Baseball App)
計測中においては、一球一球リアルタイムに数値を確認しながら、各球種の球質改善のため試行錯誤することができます。
前述の通り、回転軸・回転効率・(回転数)はボールの変化量に影響を与えるため、これら回転系の数値を変動させながら理想の変化量を追求します。
以下の動画は西武ライオンズの平良海馬投手の実例です。変化量の目標値を出すために回転数やSpin efficiency(=回転効率)がどのように変動したらよいかを解説されています。
このように各数値がどう作用しているかが理解できていると、変化球を習得する・改善するプロセスもより効率化されると思います。
ぜひ参考にしてみてください。
4. まとめ
以上、「回転軸(回転方向・ジャイロの角度)・回転効率」について解説しました。
今後もラプソードで計測できるデータポイントがどのような意味を持つのか、どう活用したらよいのか等について解説していきます。
次回は「変化量」について取り上げます。
引き続き公式noteをどうぞよろしくお願いします!