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「計測し続けることで、選手の感覚が研ぎ澄まされていく」順天堂大学・窪田准教授が語る計測の重要性【後編】

MLB全球団、NPBでも多くの球団で活用が進むラプソード。

近年では日本でも大学、高校、中学硬式とアマチュア球界にも徐々に導入が進んでいる一方、研究目的で大学の研究室や病院が主導して導入するケースも増えてきました。

今回は昨日公開した前編に続いて、順天堂大学・窪田敦之准教授のインタビュー記事後編となります。

前編はこちらから↓


日々データと感覚をすり合わせることで、より精度の高い主観的評価ができるようになる

窪田敦之 (くぼた・あつし) 順天堂大学大学院・医学研究科にて博士課程修了後、2009年に順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターで博士研究員として着任。2011年以降は順天堂大学スポーツ健康科学部にて助手、助教を務めた後、2019年より現職。2021年より医学部スポーツ医学研究室・室員を併任。(HPより引用)

ー研究の中で、ラプソードをはじめとする計測機器は具体的にどのようにご活用されているのでしょうか。

窪田 ラプソードについては、パフォーマンスの評価を色んな視点から行っています。

これまでの研究では、ストレートを60球投げた後にどれだけ肩の可動域が低下したかを見るようなものはたくさんあります。ただ、60球まったく同じストレートを投げているわけではないですよね。

そのため、たとえば「ストレートのシュート成分が強くなってきたときに、どれだけ肩の可動域が下がってしまうのか」など、パフォーマンスそのものの変化も色んな視点から見ていくべきと思い、ラプソードを活用するようになりました。

ラプソードPITCHING 2.0の計測画面。左下は投球の縦横の変化量を表しており、ボールがどれだけホップしているか・シュートしているかなど、即時に可視化することができる。

ー選手はどれくらいの頻度で計測を行っていますか?

窪田 投手陣全体で30人程度いるうち、Aチームの投手10-15人の中で計測を希望する選手には、ブルペンに入る際は毎回ラプソードを置いてくれとお願いしています。

やっぱり毎日続けないと意味がないですし、できるだけ長い間データを取り続けることが必要です。

一回二回の測定でパフォーマンスを評価するいわゆるタレント発掘的な使い方もいいですが、それ以上に年間を通したコンディショニング管理として使うべきだと思っています。

ーデータの確認・分析はどのような体制で行っていますか?

窪田 研究室に所属する大学院生やゼミ生にも手伝ってもらっているのですが、練習や試合が毎日続きますので、野球部の学生トレーナーにも協力してもらって、学生トレーナー中心でやってもらっています。ある程度データがたまってきたら、学生トレーナーとピッチャー本人、あとキャッチャーも交えてデータの振り返りを行い、部活動でも有効活用してもらっています。

たとえば各球種の変化量の分布を見て、自分の持ち球がどういう風に投げられているかを全員で確認します。

日々計測されたデータはクラウドに蓄積されていく。
上記は各球種ごとの縦と横の変化量の分布を可視化したもの。

ーその振り返りにキャッチャーを交えるのにはどういう意図があるのでしょうか?

窪田 バッテリーともにデータと感覚のすり合わせを行ってほしいからです。投球に対する自分の感覚が、実際にデータとしてどうなっているかを理解しておけば、より精度の高い主観的評価ができるようになると思うんですよ。

たとえば実際の試合では都度計測してデータを確認することはできないので、キャッチャーは試合の中でその日のピッチャーの状態を主観的に評価して、その試合を作っていかないといけないじゃないですか。その感覚を日々データと感覚のすり合わせを行うことでより研ぎ澄ましていく、つまり感覚とデータを近づけていくことは、バッテリー双方にとって重要だと思います。

データ活用が学生たちへ与える影響とは

ー日々の活動の中にデータの計測・活用を取り入れることで、学生たちにはどのような影響がありましたか。

窪田 まずは、選手それぞれの目標設定がより明確になったと感じています。データを活用することで何を変えたいのか、自分の武器は何なのかということの理解が深まったように見えます。

今までは何となく平均的なところに向かっていた気がしますけど、その平均から外れていた選手だって、実はその平均から外れていることが武器なんだということに自分たちで気づけるようなったというのは、選手たちを見ていて感じるところです。

また毎日当たり前に計測することで選手は自分の状態を数値で把握できるようになり、少なくともリーグ戦に出ている投手陣は故障がなくなりました。

年度初めに選手たちにもよく伝えるんですが、究極のコンディショニングはセルフコンディショニングだよと。セルフコンディショニングを実現するには、自分が自分を客観的に理解しなくてはダメ。

当たり前に計測して自分自身の「データの揺らぎ」が分かってくると、自分にとって良いボールとリスキーなボールが分かってきます。例えば思ったより数字が行き過ぎるから危ないな、今日は抑え目にしようかなとか。

そういう感覚が一人ひとり芽生えることで、ケガをする前にブレーキが踏めるようになるんだと思います。

窪田 また約20人いる学生トレーナーに関しては、学生のうちにデータ計測・活用を経験することは彼らのキャリアにとってプラスだと考えています。

多くの学生が将来スポーツの現場で活躍したいということを希望する中で、これからはデータ活用が当たり前になる・どんどん増えていくことが予想されるからこそ、社会に出てから学んでも遅い。

今まではそういう分析を専門的にやっている人がいたと思いますが、これからはマルチにできないとダメですよね。トレーナーの仕事もやりつつ、データも読み取れる。そうやって自分自身をデザインしていくべきだよと彼らには伝えています。

卒業生の中にはプロ野球チームで働いている子も何人もいますし、そういう「データも読み取れるトレーナー」はこれからもっと増えていくのではと思います。また保健体育の先生になる学生も多いですが、体育の面白さやスポーツの重要性をデータで話すことができる卒業生も増えていて、これってとても素晴らしいことだなと。

さらに、このような活動を続けてからはデータ分析を学びたいから入部する学生トレーナーも増えてきました。中には野球自体には興味がない学生もいるかもしれないし、私自身がそうだったように別にそれでも全然いいと思っています。

そんな学生トレーナーの「野球を知らないからこその疑問」と、選手の「野球をやってきたからこその理解」とがぶつかり合うことで、これから新しい発見をしていってほしいと思っていますね。

計測することではなく、計測”し続ける”ことが重要

ー最後に、窪田先生が考えるデータを計測することの重要性について教えてください。

窪田 「計測すること」というより、「計測し続けること」が重要だと思っています。計測”し続ける”こと、ですね。

一人ひとりのデータベースを構築するのがまず大事で、それがないとそもそも目標設定もできないし、たとえ目標に向かって進んでいたとしても迷ったときには帰る場所がない。計測し続けていれば、迷子になっても戻る場所がより近くなると思います。

なので計測機器を活用する際にはなるべく毎日定期的に、できるだけたくさん計測し続けてほしいですね。

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以上、順天堂大学・窪田敦之准教授のインタビューをお送りしました。

窪田先生の研究室ではラプソードのみならず、肘へのストレス値を計測するパルススローや、身体の加速度や心拍数を計測するカタパルトにハイスピードカメラなど、実に多くのデバイスを活用してご自身の研究と選手たちのパフォーマンス向上・ケガ予防に役立てていました。

今後もデータ活用に強い選手・指導者やトレーナーなど、多くの優秀な人材がスポーツや教育の現場で活躍されることを、心から楽しみにしています。

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公式noteでは、今後も定期的に商品・サービスやその活用方法についての情報を発信していきます。

引き続きどうぞよろしくお願いします!

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