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「選手ごとに肩を作るのに必要なプロセスも変わるべき」順天堂大学・窪田准教授が語る計測の重要性【前編】

MLB全球団、NPBでも多くの球団で活用が進むラプソード。

近年では日本でも大学、高校、中学硬式とアマチュア球界にも徐々に導入が進んでいる一方、研究目的で大学の研究室や病院が主導して導入するケースも増えてきました。

今回ご紹介する順天堂大学も、そのうちの一つです。

順天堂大学は、2019年11月よりスポーツサイエンスの観点から千葉ロッテマリーンズのメディカル体制強化に協力していることでも知られています。

2020年には佐々木朗希選手ら、新入団選手の体力測定も実施しています (大学HPより)

そんな順天堂大学で、ラプソード商品をはじめとするハイテク計測機器を活用してご自身の研究に活用されているのが、スポーツ健康科学部で教壇に立つ窪田敦之准教授です。

長くラプソードを活用してきた窪田先生の観点から、学術面・教育面におけるデータ活用の重要性や、実際の教育の現場で感じるメリットについてお聞きしてきました。

なぜ"肩を作る"のか?うまく根拠を説明できない練習方法に感じた疑問

窪田敦之 (くぼた・あつし) 順天堂大学大学院・医学研究科にて博士課程修了後、2009年に順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターで博士研究員として着任。2011年以降は順天堂大学スポーツ健康科学部にて助手、助教を務めた後、2019年より現職。2021年より医学部スポーツ医学研究室・室員を併任。(HPより引用)

ーまずは窪田先生のこれまでの野球とのつながりを教えてください。

窪田 実は僕自身は野球をプレーしたのは小学2年生の半年くらいで、競技歴としてはほぼゼロなんですね。

ただ大学教員として母校に戻ってきたタイミングで、野球部に関わる医学的な調査依頼を受けて、そこで改めて野球との接点が生まれることになりました。

すると日々野球部の選手たちの活動を見ていく中で、「なんでそんな練習しているんだろう」という不思議しかなかったんですね。

学生時代にやっていた競技はサッカーだったんですけど、サッカー部には指導方法を専門的に学んだコーチがいて、一つ一つの練習の目的を常に示してくれていたので、ある程度エビデンスに基づいた練習だったと感じています。

その中で、野球部の練習は初めて見るものばかりだったので、「なんでそういう練習をしてるの」と部員に聞いても明確な説明が返ってこないのもあり、たとえば「これまでそうしてきたから」とか「前に、そういう風にやるようにと言われたから」と言うものまでありました。

そのときに、これを研究テーマにすれば面白くなるのではと思いました。

ー具体的に、どのような練習を見て不思議だと感じたのでしょうか?

窪田 一番は「肩を作ること」です。ピッチャーが「肩を作ってきます!」というのを聞いた時に、何を作ってるのかなと思ったんですよ(笑)。

キャッチボールから始めて徐々に距離を伸ばして、ブルペンに入ったら立ち投げを何球か行い、最後にキャッチャーを座らせる。

この肩を作る一連の流れの目的を聞くと、結果として「いいピッチングができるように」とか「故障しないように」とかは出てくるんですけど、何をどこまでやればいいのか?に根拠がありませんでした。

「肩を作る」というのは日本では当たり前の言葉ですけど、きっちりとした科学的根拠をもとに行わないと選手は感覚に頼らざるを得ないから、実は「肩を作る」ための取り組みで逆に「肩を壊す」ことにつながっているかもしれない。

そう考えたので、「肩を作る」が研究テーマの一つとなりました。

理想は選手一人ひとりがオーダーメイドのウォーミングアップをすること

ー選手ごとに準備の仕方もそれほど大きく変わってくるんでしょうか?

窪田 そうですね。たとえばキャッチボールでどれだけ距離を伸ばしても、そのあとブルペンに入っても、投球強度を定量的に評価するとほとんど変わらないという選手がいました。

そうするとその選手の場合は、そのようなやり方をしても大して運動になっていない可能性がある。つまりなにか違う練習メニューを考えてあげないと、パフォーマンスが上がらないということになります。

またキャッチボールからブルペンでの全力投球にものすごいギャップがある選手の場合は、そもそもの準備の仕方が間違っている可能性があるので、その間にもう一個何か別のトレーニングを入れてあげないといけないとか。

選手それぞれの投球フォームがあって、肩に刺激が入りやすい選手もいれば、負担が掛からない投げ方をする選手もいる。どっちがいい悪いじゃなくて、それぞれの状態を把握した上で異なる練習メニューを考える必要があると思います。

ーキャッチボールひとつ取ってもまったく違うんですね。

窪田 日本だけかもしれませんが、アマ野球のウォーミングアップって、皆一緒に声を出しながら同じメニューをこなしていくじゃないですか。なんで同じことをやらないとダメなんだろう?と思いますね。

人それぞれその日の状態も違うのに、なぜ全員が毎日同じメニューで同じように動くのか、とても不思議でした。

私の理想としては、ウォーミングアップからトレーニングすべてを一人ずつ違うことをしてほしい。やってるメニューは同じでも、たとえば5分で終わる選手もいれば、15分掛ける選手もいるような。

今ではさまざまなデバイスを活用していますが、選手それぞれの体に合わせた練習メニューを組むことで誰一人として最初から最後まで同じことをやるという人間がいないようにしていきたいと考えています。

ーそれは順天堂大学のようなハイテク計測機器を持っていない学校でも、実現できることなのでしょうか?

窪田 できると思います。そのために僕らのような研究者がいて、様々なデータを照らし合わせながら研究を進めています。

将来的には、たとえ直接的には計測できなくても間接的に選手の評価ができて、練習メニューをカスタマイズしていくことは可能かなと思います。

選手のパフォーマンスを最大限引き出すために、ケガのリスクギリギリを見極める

ーそこまで出来ると、ケガの予防に大きく貢献しそうですね。

窪田 ただ僕の専門であるスポーツ医学ではやっぱり大きなテーマとして外傷障害予防があるんですが、ケガのリスクを最大限減らすためにパフォーマンスが落ちちゃったら、スポーツ選手としては何の意味もないと思うんですよ。

むしろ、パフォーマンスを最大限引き出すために、どこまでケガのリスクギリギリを攻められるかを追求しないとダメかなという考えで僕はいるので、余計に取れるデータは取っていかないといけないと思っています。

選手のパフォーマンスを上げつつギリギリを攻めるには、計測し続けないとなかなか難しいですね。

・・・

大変興味深いお話の連続ですが、今回はここまで。

明日公開予定の後編では、具体的にご自身の研究や硬式野球部の活動にどのようにラプソードをご活用されているか、またデータ計測は学生たちにどのような影響をもたらしているかについて、より詳しいお話をお届けします。

引き続き公式noteをどうぞよろしくお願いします!


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