千葉ロッテマリーンズの現役アナリストに聞いた「アナリストを目指す学生へのアドバイス」
MLBやNPBの多くの球団で活用が進むラプソード。
プロ野球の世界でもデータ活用が当たり前になりつつある中で、注目度が増しているのが「野球アナリスト」という職業です。
日米のプロ球団はもちろん、最近では国内の高校・大学野球チームでも学生アナリストが活躍するチームも増えてきました。
ただデータの面からチームをサポートする野球アナリストに興味はあるものの、野球アナリストとはどういうお仕事なのか、またどのようなスキルが求められるのかなど、詳しく語られていないことも多いと思います。
そこで今回、Rapsodo Japanでは千葉ロッテマリーンズのキャンプ地・ロートスタジアム石垣を訪問し、マリーンズのアナリストを務める丹治伶峰さんにお話をお聞きしてきました。
学生時代のご経験や、アマ球界のアナリストへのアドバイスについて詳しくお聞きすることができたので、ぜひご一読ください。
前回のアナリストインタビュー記事はこちら↓
野球と直接関係ないスキルが、アナリストの仕事に活きている
ーまず過去の経歴を含めてお聞きしたいのですが、マリーンズにアナリストとして入団する前に学生時代はどういったことをされていたのでしょうか。
丹治:学生時代は学部と大学院の両方で経済学を専攻していました。その中でも行動経済学と呼ばれる、人の意思決定について分析する学問を学んでいました。
研究では野球やスポーツのデータも扱っていて、MLBのデータを使ってストライクゾーンに対して起こる外国人・マイノリティに対する差別を扱った研究をしていましたね。
あと大学院に入ってからは、3シーズンくらいトラックマンのデータ入力アルバイトもやりました。トラックマンのデータはラプソードと共通しているものも多くあるので、トラッキングデータに関しては入団した時にあまり抵抗なくというか、出てくる数値に対してわからないものはほとんどなかったです。
ー学生時代から野球のデータ分析に触れていたんですね。当時からプロのチームで働きたいという思いはあったんでしょうか?
丹治:そうですね。具体的にデータを分析する立場でプロの世界を本格的に意識したのは、就職活動のときだと思います。大学院の博士課程で勉強していたので、そのまま博士号を取って大学教員という道も考えていたんですけど、やっぱり野球は好きだったので、どこかで野球に携わる仕事がしたいなと。
そんなときにマリーンズのアナリスト募集を見つけました。自分の好きなスポーツで、かつ自分の持っているものが生かせそうだなと感じたのが一番大きなポイントです。
実際に入団してみて、大学で行動経済学を学んだことが役に立っている実感もあります。例えば現場で選手へフィードバックをしたり、編成部で何かを決めるときには、意思決定をする人が何を考えているかを理解して、筋道だった考え方で助言することができます。
大学時代に野球の動作について学んだり、競技そのものに携わる経験ももちろん大切だと思いますけど、逆に野球と直接関係ない学問を学ぶことで得たスキルがあったのは、アナリストとしてチームに貢献する上で役に立ったことの一つかなと思っています。
意思決定を楽にする仕組みをデザインする
ーアナリストとして、行動経済学の知見はどのように現場に取り入れているのでしょうか?
丹治:計測することやデータへのアクセスのしやすさを上げてあげる、またそこに至るまでの道筋を簡単にしてあげるっていうのは、大事なことだと思っています。
当たり前に思うかもしれませんが、例えばアナリストがいる部屋に気軽に入って、分析の結果を確認したり相談できたりとか。計測しているときも現場ですぐに質問に答えたりとか、そういうコミュニケーションがいつでも取れるのが習慣づけとしてすごく重要です。
考えるコストを下げるためには、計測機器が常に置いてあって使える状態にすることも必要です。選手が何も言わなくても計測できる環境を作っておくことで、自然と計測するようになる。最終的には自分で進んで計測して、データを見返す習慣がつくので、それもアナリストとしての現場への介入の一つだと思います。
ーまったくデータに関心がない選手に対しては、どのようにアプローチするでしょうか?
丹治:基本的には選手の意思を尊重するので、使いたくないこと自体はまったく問題ないと思っています。
一方で、計測してもしなくてもどちらでもいい選手っていうのが結構いるので、そういう選手のためにデフォルトの選択肢を用意しておくことで計測することを促すのは、やはり必要だと思います。
関心のない選手へのアプローチっていうとちょっと違うのかもしれないですけど、データ活用の範囲を広げるという意味では、効果的だと感じています。
ラプソードをアマチュア野球で活用するためのアドバイス
ー最近では高校・大学でも「学生アナリスト」が増えてきています。ラプソードを活用する上でのアドバイスを頂けないでしょうか。
丹治:ラプソードのデータは他のデータと合わせることでより役に立つものだと思うので、試合のデータだったり、ブルペン以外の文脈の中でどういう位置づけなのかを考えることはとても大事だと思います。
例えばとても良い数値を記録するスライダーを持っているのに、試合ではなぜか結果がでない投手がいたとします。その原因を考えたときに、そもそも武器であるスライダーを全然投げていなかったり、実際にブルペンで投げているボールが試合の中で再現できていないというのは、意外とよくある話です。
試合の中で自分の持ち球をどれくらいの割合で投げているのか、その結果何が起こってるのかっていうのを意識するところから、まず始めるべきかなと思います。
ー練習で計測できるデータだけでなく、試合の中での結果と紐づけて改善点を見つけていくイメージですね。ヒッティングの方は如何でしょうか?
丹治:ヒッティングデータの方こそ、より試合の中での結果とリンクさせて意識しなきゃいけないと思います。
例えば打球速度が速いのになんで打てないんだろうっていう選手の場合だと、実戦の中だとそもそも打球が発生してないので打球速度とは別のことを考えなきゃいけないよねっていうのはよくあります。
ピッチングがスピードガンコンテストじゃないのと同じように、ヒッティングもただフリーバッティングで打球速度を求めるだけではなくて、より実戦に近い環境で計測するとか、実戦形式だとスイングするボールの数が減ってないかを確認することなどは、すごい大事なことではないかなと。
そのため打球速度や角度と言ったヒッティングデータよりも、むしろピッチングデータの方が打者にとっては有効かもしれませんね。例えばスイングするボールは間違っていないけど当たらないから空振りが増えているのか、それともボール球を振ってしまっているから空振りが増えているのかを分けて考えるだけでも、それに応じて選手がやるべきことも変わってくるでしょうから。
自分がスイングしたボールの球質を確認したり、自分自身のストライクゾーンの判定に対してフィードバックをもらうことの方が、得られる情報としては実は有益なんじゃないかと思います。
丹治:そういう意味だと、PRO 3.0だと投打両方のデータが同時に計測できるので、これまでのPITCHING 2.0やHITTING 2.0のようにいずれかしか計測できなかった状況に比べると、より実戦で生きるアプローチがしやすいと思います。
ー嬉しいコメントですね。PRO 3.0をご紹介頂き、ありがとうございます!笑
学校に行って、たくさん勉強しよう!
ー最後に、これからプロ野球チームのアナリストを目指す人たちへのメッセージを頂けますでしょうか。
丹治:アナリストの仕事自体が認知されてきたり採用の枠が広がったことで、アナリストを目指す人もすごく増えてきた印象です。
そんな中で、恐らく「野球が好き」ということだけでは他者と差別化することができなくなってくると思います。そのため野球に限らない、より一般的な文脈で役に立つスキルをひとつ持っておくのは大事かなと思います。
私の場合は、経済学を学んできたことが野球の現場に携わる中ですごく役に立っていると実感していますし、データを扱うにしても野球だけでなくて「広く一般的にこういう性質のデータだったらこういう分析をしたらいい」というような、包括的な分析スキルを持っていることの方が求められると思います。
ー野球が好きと言うのは大前提としてある中で、何ができるのかということですね。
丹治:なんなら、野球が好きじゃなくてもいいとすら思いますね。野球以外のことでどんなスキルがあるのかの方が重要で。持っているスキルに対して、野球の中でどう役立てていこうかっていうのは、我々のような今いるアナリストが考えることです。
逆にアナリストを目指す人たちの方で野球にこだわって、可能性を狭めてしまわない方がいいんじゃないかと思います。
そのため端的に言うと、「学校に行って勉強しましょう」っていう話になってしまうかもしれないですね。やっぱりグラウンドと関係ないところで勉強したことって、すごい役に立っているなと思うので。
野球が好きなのは大事だし、野球がうまくなるための工夫について考えるのももちろん大事なんですけど、学校で勉強したことで仕事の役に立ってることって結構いっぱいあるぞっていうのは、強調しておきたいですね。
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以上、千葉ロッテマリーンズのアナリスト・丹治伶峰さんのインタビューをお届けしました。丹治さん、ご協力頂きありがとうございました!
公式noteでは、今後も定期的に商品・サービスやその活用方法についての情報を発信していきます。
引き続きどうぞよろしくお願いします!