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【投手編】第1回:和田照茂氏の指導者の在り方と戦略ピラミッド

皆さん、こんにちは!
Rapsodo Japanでは、トレーニングシーズンの特別企画として投打それぞれのプロフェッショナルの最新の理論を紹介し、現場の指導者や選手の皆さんの課題解決のヒントになる考え方を、note、YouTube、その他SNSなどで発信していきます。

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前回の打撃編に続いて、今回からスタートする投手編では北海道日本ハムファイターズのトレーナーなどを歴任し、現在はベースボールコンサルタントとして多くのプロ野球選手や強豪校の指導に携わる和田照茂さんにご登場頂きます。

和田照茂(わだ・てるしげ)
1981年6月18日生まれ。広島県福山市出身。
広島商業高校−大阪体育大学−履正社医療スポーツ専門学校鍼灸科
​中・高体育科一種教員免許、鍼灸師資格を所有。
中学・高校・大学・社会人まで幅広くチームコンサルティングを行い、2007年にAAAアジア選手権野球日本代表トレーナー、2018〜19年には北海道日本ハムファイターズでチーフトレーナーを務めた。現在も、多くのチームや選手を指導・サポートしている。

公式HPより

和田さんには「投手育成論」と題してピッチング指導における考え方や大枠となる理論を、動画では全2回、記事では全4回に渡りお送りします。

まず今回の第1回目は、「指導者が野球を指導する上での心構え」や「基本的な考え方」を解説して頂きます。全ての世代の投手・指導者必見の内容となっておりますので、ライバルやチームメイトに差をつけるためにも是非参考にしてみてください。

1. 指導者がどんな野球をしたいか明確にする

ーベースボール・コンサルタントとしてご活動をされていますが、まず、どのような部分を求められて依頼をされることが多いのでしょうか?

和田:シンプルに、トレーニングについて質問される先生が多いです。「どんなトレーニングをしたらいいですか?」「どうしたら勝てますか?」といった漠然とした質問をされることが多く、単純にプロ野球選手がやってるトレーニングを教えて下さいという方もいらっしゃいます。

そんな指導者の方には、「まずどんなトレーニングをしていますか?」と質問返しをします。ホワイトボードに、実践しているトレーニングを全部羅列して頂きますが、ある高校の監督さんは100種類ぐらいのトレーニングを書いたこともありました。

いつも様々なトレーニングを課していらっしゃいますが、「選手たちは、トレーニングの目的や意図を明確に理解出来ていると思いますか?」と質問すると、皆さんハッとするんですね。まず大事なことは、どんな野球を目指すのか戦略を考え、その戦略を逆算して必要性の高いメニューを選んでいく作業です。

ーどんな野球がしたいか明確な指導者の方は多いでしょうか?

和田:やりたい野球が明確にある方もいれば、どうしていいかわからない状態だから僕を招聘する方もいます。でもやっぱり多くの方は、今までのやり方に限界を感じていて、変わらなければいけないと感じている方が多いように感じます。

目指したい野球が無い方には、「これまでどういう野球をやってきたのか」を聞きます。自分の高校時代や大学時代、社会人時代を振り返って頂き、その中で失敗例や成功例を挙げて頂きながら方向性を探していきます。

大きなチームの方向性が決まれば、それを見失うことはありません。よくあるのが、「新チームが始まりました」もしくは「冬の練習が始まりました」といったタイミングで方向性を決めていくのですが、夏まで継続されるケースが少ないことです。引退する頃には、昨年の夏に立てた目標を完全に忘れてしまっているケースが非常に多いです。

そうなると一年間を通してやってきたことが選手たちにフィードバックされず、最初に立てた目標が良かったのか悪かったのか、方向性や取り組みの何が良くて何がダメだったのか、わからないまま次のチームを変えることになります。

よくラストミーティングをやっていますが、本当のラストミーティングは立てた目標がどれだけ成果として表れたのかを確認すべきだと思います。

夏の大会が終わると一時解散という形になりますが、「鉄は熱いうちに打て」です。すぐに来年度に向けたミーティングを行い、2-3時間くらいかけてスローガンを決める。そしてスローガンは、多数決ではなくてしっかりと選手にディベートをさせて、なぜこのスローガンをするのか、なぜこのスローガンではだめなのか、目指すべき姿や自分たちの弱点や長所は何なのか考えるべきだと思います。

2. 試合に出る選手を決める基準「戦略ピラミッド」

ーここからは方向性を決めた後に、トレーニングメニューを決めていく部分をお聞きしていきたいと思います。メニューを決めるために、どんなことを考える必要がありますか。

 和田:一番大切なのは、選手それぞれの評価基準です。まず指導者の方に、「どうやって9人のスタメンを決めますか?」と質問をしますが、多くの方は「試合経験のある選手とか、球が速い選手」など、技術的なことよりも試合で結果を出す確率の高い選手を9人選ぶとおっしゃることが多いのです。

ですが、この指標だけだと見誤る可能性があるし、対戦チームに応じて結果を出す選手と出せない選手がいることもあります。あらゆる角度から選手の指標を見るべきだと思っていて、私はゲームの中での評価を「スタッツ」として出して、ゲームの中だけではなくてフィジカル面の評価もします。

これを「戦略ピラミッド」といって、図にしたものを以下で紹介します。

【図1: 戦略ピラミッド】

チームの方向性や、勝つための戦略が一番上にきます。例えば、「少ないチャンスをモノにして投手中心の守りの野球」や「10対9で勝つ豪打の野球」のように、大きなテーマを掲げると思いますが、これが戦略です。

一番下の方には組織やメンタルといった要素がありますが、これは「そもそも野球が好きなのか」や「モチベーションはどうなのか」、「どこに到達しようとしているのか」などチームとしてのメンタルや組織力、チームに関わる色んな立場の人たちが、どのように連携してチームを運営していくのかといった根本的な部分です。

ただ、この二つは私がサポートできない部分もありますので、メインはフィジカルから戦術スキルまで6つのところです。ここをアドバイスしていくことになります。

「スタッツ」などゲーム中での成績は「戦術スキル」に分類され、トレーニングなどは「ベースフィジカル」になります。例えばウエイトトレーニングでは、デッドリフトやスクワット、50m走など、そもそものアスリート力としての評価が「ベースフィジカル」になるイメージです。

野球はどちらかというとスキルのスポーツです。サッカーやバスケ、ラグビーのようなフィールド競技だと、フィジカル要素の高さがスキル要素に直結することはありますが、野球はスキルが介入する部分が大きいですよね。

野球において、フィジカルとスタッツをどのように結びつけるか。私の中では、「ベーススキル」「競技フィジカル」「競技スキル」「戦術理解」、この4つが特に重要だと考えています。

振る動作や投げる動作にはスキルが絡んでいますが、同時にフィジカルの要素も兼ね合いした状態です。投球や打撃に対して、フィジカル要素が足りないのか、それとも地面反力や力をボールに伝えるといったベーススキルが足りないのか。そのどちらかが足りないのかを評価をしていくことが大切です。

さらにそこから、相手投手のボール捉えることができるか、ボールをコントロールできるかといった「競技スキル」。さらには相手投手の分析や守備位置の改善などの「戦術理解」が「スタッツ」に反映されていきます。それが、立てた戦略から逆算して発揮されていく構造の「戦略ピラミッド」なのです。

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以上、ベースボールコンサルタントの和田照茂さんに「指導者が野球を指導する上での心構え」や「基本的な考え方」について解説して頂きました。当noteの動画版は、ぜひこちらからご覧ください↓

次回の第2回では、投手のタイプ別指導法について詳しくお聞きします。お楽しみに!

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次回の記事はこちらから↓


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