【打撃編】第3回:ホームラン王誕生秘話
皆さん、こんにちは!
Rapsodo Japanでは、トレーニングシーズンの特別企画として投打それぞれのプロフェッショナルの最新の理論を紹介し、現場の指導者や選手の皆さんの課題解決のヒントになる考え方を、note、YouTube、その他SNSなどで発信していきます。
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打撃編の前回は、「アラボーイベースボール根鈴道場」を主宰する根鈴雄次さんに具体的な縦スイングとその練習方法について語って頂きました。第3回となる今回は、2021年にパ・リーグの本塁打王を獲得したオリックス・バファローズの杉本裕太郎選手を指導したエピソードをご紹介頂きます。
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1. まず振り回すのをやめるところからスタート
ー根鈴さんの指導を受けて大ブレイクを果たした選手の一人が、2021年にパ・リーグの本塁打王を獲得したオリックス・バファローズの杉本裕太郎選手です。杉本選手がどのような経緯で根鈴さんの指導を受けることになり、またどのような改善を経て本塁打王を獲得するまでに至ったのでしょうか。
根鈴:初めて杉本選手と出会ったのは、2018年のオフシーズンです。オリックスでブルペン捕手をやっている瓜野純嗣さんが私を紹介してくれて、そこから指導が始まりました。
当時、瓜野さんは、杉本選手に対してとにかくもったいないと感じていたそうです。体はすごく大きいのに、力任せにブンブン振るだけで、良い打球は全部レフト側にしか飛ばない。ロングティーをやらせたら多分日本一の打球を飛ばすけど、フリーバッティングをやると弱点がすぐに見えてくる。
かと言って、立場的にブルペンキャッチャーが指導する訳にもいきません。杉本選手も試合で全く成績が残せず、クビも覚悟していた2018年のオフに「何とか自分を変えたい」と僕のところに来てくれました。
最初は僕の理論も何も分からないから、フロントトスで打ってもらい、甘めのアウトコースをセンター方向に打ってみようと言いました。しかし杉本選手は、センター方向に打ちたいのに打球は全てレフト方向へのゴロになってしまうんです。サードゴロやショートゴロのような感じです。当時の杉本選手は、バットのヘッドが返る間際か、ヘッドが返った後にバットに当たるようなバッティングしかできなかったのです。
「よし、わかった」と・・・。
根鈴:とにかく力があるのは理解できたので、僕はまず「ブンブン振り回して、空気を切り裂くのをやめようか?」というところから話して、如何にロスなくボールをバットに当てるかが最も大切であることを話しました。
「アウトコースのボールは、体の前で打つのではなくて、軸足の位置ぐらいのところで捉えるんだぞ、キャッチャーが捕球する間際でも打てるんだぞ」と伝えました。
そこから小学生や中学生にもやらせるドリルをやって、あとはLINEなどで動画を送ってもらいながら指導を続けました。「ラオウ」と呼ばれるように豪快なイメージがありますが、杉本選手は意外と器用だったんです。元々、ピッチャーをやってたそうで、体は大きいですが硬さはなくて、柔軟性もありました。徐々に今の「ラオウ」のように、フォロースルーの豪快なカッコいいフォームに変わっていきました。
2. 30%の力でホームランになる
ー実際に杉本選手が「アラボーイベースボール根鈴道場」に訪れたのは2018年のオフに1回、2019年のオフに2回のみでしたが、継続的にLINEでのやりとりによる指導を行った根鈴さん。杉本選手は、2019年に18試合に出場して4本塁打、2020年には41試合に出場して打率.268と年々成長の跡を残していき、2021年の大ブレイクへと繋がっていきました。ここからは杉本選手の、技術的な成長の過程を語って頂きます。
根鈴:最初は日本でOKとされている、上から無理矢理叩くようなスイングをしていました。前の足も折れてしまっていて、非常に問題点の多い打撃フォームでした。
中でも特に問題だったのが、腰の回転と一緒に肩も回転してしまい、さらに肩の回転に顎も引っ張られていたことです。僕は「前の肩と顎にチェーンがついた状態」と表現するのですが、振る力やリストはすごく強いから、インパクトで上手く引っかかって、当たればレフト方向に飛んでいくみたいな打撃でした。だからロングティーで、斜め45°の角度からレフト方向へ飛ばすだけならすごい飛距離だったんです。本人も多分日本一だと言っていました。
でもそんな打撃に意味はないですし、それは本人もわかっていたようです。
だから僕がまず彼に言ったのは、「あなたの30%のパワーでもホームラン入っちゃうよ」ということです。グリップを落とすことで加速が生まれ、ボールにバットの芯を真正面から衝突させる。ヘッドは返さずに、右手はそのまま上に突き上げるようなイメージを丁寧に説明し、最初はなかなか理解できない様子でしたが、徐々に良い形になっていきました。
また縦のスイングを行うためには、肩の回転と胸郭の動きを縦に使い、頭はしっかりと残すことが大事です。こうしたことを改善していくことで、徐々に試合でも結果を残せるようになり、現在のような「ラオウ」のカッコいい打撃フォームになっていきました。
ちなみに日本では、スイングをたくさんやると手の皮がボロボロになるじゃないですか。でも僕が教えるスイングは、手にマメもできないんです。ボールに対してしっかりとコンタクトすることが大事なので、ブンブン振り回さなくても、凄い打球を打てて逆方向にもすごい打球が飛ぶようになります。
最終的には、豪快でカッコいいスイングに変わって帰っていきました。彼にとっては、吹っ切れたというか楽しかったみたいですね。これでいいんだと自信になったみたいですし、やっぱり「ラオウ」と言われるキャラクターはあったので、そんな打球を打たないといけないプレッシャーもあったようです。その方法論が、力頼みのスイングでは成し得ないことを知れて楽しかったのだと思います。
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以上、「アラボーイベースボール根鈴道場」を主宰する根鈴雄次さんに杉本選手を指導したエピソードについてお話し頂きました。
次回の第4回では、2021年シーズンの杉本選手の成長や、その他のプロ野球選手の打撃技術についてさらに掘り下げてお話し頂きます。お楽しみに!
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