高島誠トレーナーが語る、「選手の芽を摘んでしまわない」ためのデータ活用法【前編】
MLB全球団、NPBでも多くの球団で活用が進むラプソード。
近年では日本でも大学、高校、中学硬式とアマチュア球界にも徐々に導入が進んでいますが、一方でユーザーの皆さまからは「活用方法がよくわからない・難しい」というお声を頂くことも少なくありません。
そこで公式noteでは、長年ラプソード商品を使いこなしている"コアユーザー"の方にその活用方法を聞くインタビュー連載「コアユーザーに訊け!」をスタートしました。
第4回に登場するのは、広島でMac's Trainer roomを運営する高島誠さん (@littlemac0042)です。
ラプソードを活用した野球指導の草分け的存在として、プロアマ問わず多くの選手を指導してきた高島さんのデータ活用法を、ぜひ参考にしてみてください。
狙った通りの数値が再現できるかどうかが勝負
ーラプソードを活用する上で多くのデータポイントが計測できるかと思いますが、特に重視されるものはありますか?
高島 狙った通りの数値が再現できるかの勝負だと思うんですよね。リリースポイントで言えば、ラプソードだと高さとサイドの位置が計測できますが、球種ごとに意図したポイントで投げられているかがチェックポイントになります。
高島 例えばカーブだと早くリリースされるので高さとしてはストレートよりも高く出るのが普通ですが、カーブがワンバンしてしまう選手はカーブもストレートと同様に前でリリースしていることが多いです。
またトップスピンのカーブを投げたいのにストレートと同じようにリリースしようとすることで、肘に負担が掛かることにも繋がる。
パワプロのナイスピッチに例えたりしますが、それぞれの球種でどこでリリースすればストライクが取れるかを理解できているか?と選手には問いかけています。
ーではリリースポイントのデータに関しては、目指すべき数値があるというよりは、選手それぞれの投げ方や球種に合った数値を見つけて再現できるようにすることが重要、ということでしょうか。
高島 そうですね。さらに回転数が上がってボールの変化量が増えてきたときには、変化しすぎるとボールになってしまうので、ストライクを取るためのリリースポイントも変わってきます。
これもパワプロやプロスピの「カーソルの位置」を例に挙げてよく説明していますが、どの位置でリリースすればストライクが取れるのか?意図したコースに投げれるのか?を理解する必要があります。「ボールの変化」と「カーソルをどこに合わせるか」の両方の再現性が重要となります。
高島 ラプソードで計測できるデータを活用してボールを改善できるようになったのはすごく良いことですが、一方で良くなればなるほど、ストライクが入らなくなるんですよ。
これまではインハイにズドーンと行ってたのが、球速や回転数が上がってホップ成分・シュート成分がともに強くなったことで、高めのボール球になってしまい、本人は「どうストライクを取ればいいかわかりません」と言ったりするんですよね。
こんなときに「ストライクゾーンは外れたけど、ボール自体はよくなったね」と評価できる指導者が少ないんです。
指導者がストライクが取れないからダメと怒ってしまうと、選手はストライクを取るために縮こまってカットするようなリリースになってしまい、結果的に球質も悪くなってしまう。選手の芽を摘むようで、とてももったいないですよね。
こういうときは、例えば「ホップ成分が増えてきた、よしよし。ただ、狙うところを考えないとボールになってしまうよ」と言うべきだと思います。これはある意味、成長過程で起こりうるエラーとも捉えられますが、ラプソードを使えば選手・指導者がそういった点にも気づけるようになると思います。
親指が邪魔して回転数が上がらないケースも多い
ー「回転数を上げるためには、具体的にどうすればいいですか?」とよく聞かれるのですが、高島さんは選手にどうアドバイスしていますか。
高島 そもそも回転数を下げてしまう要因の一つとして、親指をロックしてしまう選手が多いです。
ボールをギュッと握りたいと意識すると、親指をこう置いた握り(上記写真の握り)になりますが、実際にボールが指に掛かるタイミングって、親指が外れた後なんですよね。そのためリリース時にきれいに親指が外れないといけないですけど、親指でギュッと握っているとリリース時に上手く指に掛からない。
なので、親指が邪魔して回転数が上がらない・回転軸がおかしくなっているなと思った際は、前方からハイスピードカメラで撮影して選手に見せるようにしています。
高島 そのため、たとえば親指をたたむような握りにすると、ロックするものがないのでスムーズにリリースすることができます。
ー親指をたたむように握るとボールが抜けそうだなと思うのですが・・。
高島 親指の柔軟性の問題ですね。親指を伸ばした時の角度が90度を超えていたら、たためます。超えてないですよね(笑)。
ーはい・・。
高島 硬い人は、まずは親指を机に付けて伸ばすなど柔らかくする必要があります。プロの選手でも、回転数が多いとされる投手はこういう親指をたたむような握りをしていることが多いですね。
▼参考写真 (以下リンクをクリックしてご確認ください)
高島 なのでボールの握りを変えることは、回転数を上げるというよりロスをなくしたいという方が近いですね。
そのため選手によっては、握りを変えることですぐに200-300回転数が上がるケースもあったりします。
ゾーン内のどのコースにも同じ球質のボールが投げ込めるか
ーそれでは「回転効率を改善したい」というときには、どのようなアドバイスをされることが多いですか。
高島 ストレートの回転効率を100%に近づけたい、良くしたいというときには、現状どの高さに投げたら100%になるか?を聞いています。
たとえば、立ち投げだと100%で投げられる選手は結構いるんですよ。ただ、キャッチャーの構えが低くなるにつれて回転効率が悪くなる、ボールがカットしてくるということは、その位置に綺麗なバックスピンで投げうる身体の柔軟性がないということなんですよね。
ゾーン内に入れるために小手先だけで調整しようとするから、無理が生じて低めに投げようとするほど、ボールがカットしてしまうということです。
それがお尻や胸郭の柔らかさがあれば、無理なく前でリリースすることができるので、きちんとゾーン内に投げ込むことができます。
高島 自分がよくやるのは、ストレートをストライクゾーンを4分割したそれぞれのコースに投げてもらって、回転効率などの数値を確認します。
たとえば右打者のインハイへはめちゃくちゃ良いストレートが投げれているのに、アウトローに投げるとかなりカットしているというケースもよくあります。
ーコース別の球質を確認するということですね。
高島 そうですね。あと低めがカットしているというのは、技術というよりコンディショニングの問題もあります。
普段アウトローでも回転効率のよいストレートを投げ切れていたのに、投げれなくなってきたのは、前でリリースできない理由が身体のどこかにあるからだと。そういうケガの予兆のチェックにも活用することができます。
ーありがとうございます。回転数にしても回転軸にしても、フィジカルや技術の問題というより、柔軟性が原因ということも多いんですね。
高島 そうですね、なので柔軟性が足りないせいで数値が出ない選手もいるので、そういう選手の場合「ただ継続してやればよくなるよ」というわけではありません。
指導者にとっては、そこの見極めが重要だと思います。
・・・
大変興味深いお話の連続ですが、今回はここまで。
今回お話頂いた投手のデータ活用法については、先日発売された高島さんの新書籍「革新的投球パフォーマンス ピッチデザイン」でより詳細に解説されているので、ご興味のある方はぜひお手に取ってみてください。
また明日公開予定の後編では、打撃面におけるデータ活用に関するお話をお届けします。
引き続き公式noteをどうぞよろしくお願いします!