「行けるところまで行け」ではダメ。元ロッテ投手・小林亮寛が語る計測の重要性【前編】
MLB全球団、NPBでも多くの球団で活用が進むラプソード。
近年では日本でも大学、高校、中学硬式とアマチュア球界にも徐々に導入が進んでいますが、一方でユーザーの皆さまからは「活用方法がよくわからない・難しい」というお声を頂くことも少なくありません。
そこで公式noteでは、長年ラプソード商品を使いこなしている"コアユーザー"の方にその活用方法を聞くインタビュー連載「コアユーザーに訊け!」をスタートします。
記念すべき第1回に登場するのは、元千葉ロッテマリーンズ投手・小林亮寛さんです。
福岡で野球専門トレーニングスタジオ「コビーズ」を運営し後進の指導に当たる亮寛さんの、ラプソード活用方法をぜひ参考にしてみてください。
自身のピッチングスタイルを生かすため、自らデータの収集・活用をしていた現役時代
ー亮寛さんは現役時代からデータ活用はされていたのでしょうか。
亮寛 僕がプレーしていた海外のチームではスコアラーがいないことが殆どだったので、自分で対戦成績のメモを取りながら打者の打球方向・角度とか打球傾向についてのデータを集めていました。
たとえばこの打者は比較的三遊間に強い打球が行きやすい、セカンドゴロは弱くなりやすいなどの傾向が見えてくると、こっちで守備を動かすことができるじゃないですか。
「ショートもう少し深く」とか、「レフトもっと寄っていいよ」とか。そうすると、打たれてもいいわけですよ。打球傾向に合わせて打たせることができたらアウトになる確率が高くなりますし、そういったデータの収集は重要でした。
ーご自身で打球傾向のデータを集めるのは大変じゃなかったですか?
亮寛 そうですね、大変でした。初めて対戦するチームだと特にそうで、たとえば韓国でプレーしていた時だとメンバー表もすべてハングルで読めないわけですよ(笑)。なので打撃練習をベンチで見ながらこそこそっとメモしたりしていました。
アメリカでプレーしていた2006年は当時YouTubeが出始めのころでしたが、よく代理人が選手の映像をアップしたりしていました。そのため対戦相手の映像は、事前に探して確認するようにしていましたね。
亮寛 あと僕は外国人選手だったので、自分を売り込むときにチームの守備率も見ていました。僕がツーシームピッチャーでゴロを打たせることが多いので、特にサードとショートの守備力が高いチームにはよくメールを送っていましたね。
データは自分の経験・感覚を選手に伝えるために欠かせないツール
ー引退後、指導者に転身してからはデータをどう指導に活かしていますか?
亮寛 特に球種の開発に関しては、ラプソードのデータを活用しています。
これまではブルペンでの研究の基準がキャッチャーのコメントなど感覚でしかなく、実際にバッターに投げてみると曲がりが早かったりとかで使えるボールの見極めが難しかったように思います。
ただ今はラプソードがあるので、生徒たちに話すときも、たとえば変化球の曲がりが早くてボール球になりやすい・打者に反応されやすいボールになってしまっているとかと言うときに、「もう少し回転軸を浅くした方が手元で曲がるんじゃない」とか、客観的なデータをもとに会話ができるんですよ。これはめちゃくちゃ大きいですよね。
経験があれば、ある程度自分の中で「こういう曲がり方だったらバッター反応するよな」とか「この辺に落とすと空振り取れるな」とか分かるんですが、経験がない子たちにとっては伝えるのが難しいので、そこは回転数とか回転軸といったデータを使って説明しています。
あとはラプソードのデータがあれば、選手それぞれの球質を説明してあげて、たとえば「このボールを軸にしていこう、コースやスピード差で対になるボールを磨いていこう」といったアドバイスができます。
こと高校生においては「球種は持っている方がいい」と考えて、球種を増やしたがるんですよね。増やしたがるけど、全部が薄かったら効果的じゃないので、「球種の選別」を選手本人とも納得して行うために、ラプソードのデータは良い材料になってますね。
指導者は「先発投手は行けるところまで行け」ではなく、投手の戦える状態を明確に把握すべき
亮寛 あと指導者になって一番思うのは、選手を「故障させたくない」ということです。
たとえば「行けるところまで行け」というのはよく聞きますが、その「行けるところ」というのは物凄く曖昧ですよね。選手の「行けるところ」というのは、「ぶっ壊れるところ」なんですよ。それはもう手遅れですよね。
ラプソードのデータを使えば、先発投手ならストレートを投げ続けたときにどれくらいの球数から回転数が落ちてくるとか、軸が傾いてくるとかが練習で把握できます。
そうすると「この子は痛いと言わなければ150球投げられるけど、球質的には60球が限界だな」というようなことが分かってきますし、同時に「60球が交代の目安」という水準が見えてきます。
選手にとっては物足りないかもしれないけど、60球で戦って次の試合に向けて負担を減らしてあげることができる。これは特に高校生の指導者にとっては、すごく重要なデータになると思います。
「行けるところまで行け」はダメですからね。選手はアドレナリン出ちゃったら「行けます!」というのは当たり前なので、戦える状態のところで替えてあげるのが大事だと思います。
「故障の予兆」を選手は教えてくれない。データを使って、指導者が把握しないといけない
ーそれではラプソードはケガの予防にも効果的と言えるでしょうか。
亮寛 まず間違いなく、球数ごとの変化を見ることは効果的だと思います。
あとはリリースポイントの高さですね。球種によっても変わってきますが、そのような特徴をデータとして残していくことで「予兆」が出る。
選手は指導者に「調子が悪い」と言いたくないじゃないですか。肩が重いとか違和感とか伝えづらいし、直接聞いても「大丈夫です!元気です!」と返事をするけども、実際数値で変化が出ていたら、休ませないといけないわけですよ。
感覚的なものではなくて、選手・指導者双方にとって疑いのない事実であるデータで予兆を見つけることは大事だと思います。
ー球数を管理することと、リリースポイントの特徴を把握して、その変化を見逃さないことが重要ということですね。
亮寛 あとはラプソードのいいところとして、ボールのコースや高さがすごく正確に出てくるんですよね。例えば60球とか投げた時に、ボールが抜けやすくなるとか引っかけやすくなるとか、バラつきが出てくるとか、そういう傾向を把握することができます。
亮寛 アマチュア野球では配球チャートを記録することってあまりないと思いますけど、これってすごく大事だなと思っています。経験上、肘の故障をする直前は抜け球が増えてくるんですよ。
下半身がへばってきて、ストライドが大きくなって、股関節が回らないようになって、体が倒れるようになるから、ボールが抜ける。それを無理に腕だけで修正しようとするから、体に負担が掛かってくる。
ストライクゾーンの傾向を把握することはケガの予防もそうですし、試合で抑えていく、勝っていく投手を作るうえでも重要だと思っています。
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大変興味深いお話の連続ですが、今回はここまで。
明日公開予定の後編では、ラプソードで計測できるデータの中で特になにが重要か、また回転数や回転軸などを改善するときにどのようなアドバイスをしているかなど、指導面のより詳しいお話をお届けします。
引き続き公式noteをどうぞよろしくお願いします!